研究を始める前に学ぶとよい数学

数理生物学・理論生物学において最も基礎的な数理的な手法は、間違いなく微積分と線形代数です。 むしろ、研究で出会うほぼすべての数学は、これら微積・線形でカバーされると言っても過言ではありません。 これらの単元は、大学の教養講義で学ぶものであり、それらの講義も一生懸命修めることを目指すと良いと思います。

しかし、大学の単元は非常に基礎的であり、数理生物学に実際にどう応用するか、という部分については説明を受けることは少ないと思います。 そのため、やる気を出して大学数学の教科書を読み始めたとしても、数理生物学との関係性は見いだしにくいと思います。 どのような数学を学んでも数理生物学には役に立ちますが、 工学・物理学などへの応用を意識した教科書を選んだほうが、豊富な具体的な例で直感をやすいかもしれません。

特に、具体例を用いて理解を深めると良いと思います。 私が「この具体例、いいな」と感じるのは、なんと言おうと、非自明で最もシンプルな例です。そういう例を構成できるようになれば、その単元についての理解が深まっているとも言えます。 あるいは、非自明で最もシンプルな反例についても議論できると尚良しです。

なお、実務的に直面する問題が、実は高校数学で解けることも多いです。 ただ、残念ながら高校数学では、「偏微分」や「固有値」、「固有方程式」、などの計算を行いこそすれど、名前ある概念として学ぶことがありません。 とはいえ、概念としては知らずとも、具体的な計算手法については学んでいることが多いのです。 実際、知らないうちに計算させられていた・解かされていた問題はたくさんあると思います。 たとえば、二次方程式の根の数・配置問題は、幾度となく解かされたものだと思います。 これらは、固有値の場所を決定するうえで基本的なアプローチなのですが、 研究においても、固有値の配置の分析は頻繁に登場するクラスの問題です;たとえば、個体群動態の安定性は、固有値を用いて議論することができます。 なので、必要に応じて高校数学についても思い出すのも重要であると思いますし、「あのときに解かされた問題の背景は、これか」という納得にもつながりやすいと思います。

また、基礎的な確率論(確率分布の種類など)や統計科学についても学んでおくと、 数理解析の生物学的解釈を得るのに役に立つことが多いです。 特に、非常に基礎的な確率過程から導かれる確率分布については習熟しておくと良いと思います。 ただし、数理生物学的な文脈で、それら確率分布が登場したときに、改めて学習する、というスタイルのほうが、脳に定着しやすいと思います。

さらに抽象的な数学についても、学んでおくと、解析の見通しが良くなることは多いです。 抽象化というのは、なにか事物を具体的に計算するうえで便利なことも多いのです。 たとえば、集合位相論、測度論、多様体論、群論、複素関数論あたりは、やはり大学初年度あるいは二年目に習うことが多いと思いますが、 これらはやはり数学の中で言えば基礎的単元(あるいは「数学的常識」)であり、将来的には既視感をおぼえやすい概念の習得に有用であると思います。 他にも、統計物理学、熱力学、情報理論、グラフ理論、数理工学など、どんな数学を学んでいても、数理生物学における解析の見通しを立てる役に立つと私は思います。

どんな数学を学ぶにしろ、研究で登場した具体的問題を解決するために学ぶ数学のほうが身に付きやすいと思います。 勉強は責任が伴わないし楽しいですが、まずは研究で使うのだ、という明確な目標があったほうが、やる気も維持しやすいと思いますし、効率的に学習を進められると思います。 目安として、一週間勉強しても、自分の研究との結びつきにピンとこない場合は、学習を立ち止まり、研究に戻って違うアプローチを検討しても良いと思います。

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